大差をつけて最終日を迎え、そのまま勝利することは、とても難しい。日本ツアー選手権。宮本勝昌は、2位に7打差をつけてスタートした。後半、インの13番ホールにやってきたとき、スコアボードを見ると、6打差あった。6打差あると、と思った瞬間、自分を見失ってしまったのだと宮本は言った。
まさに、仏教用語の「繋縛(けばく)」の状態である。心が煩悩に繋がれ、縛られて、なにできない状態である。もっといえば、何か言い知れぬものにとらわれていて、コントロール不能の状態のことである。
6打差は、ゲームの中で、実になやましいスコア差である。6打もあるから、いつも通りのプレーをすれば勝てる、という気持ちが、実は揺れ動くのだ。いつも通りって、どういうゴルフだろうか、と。
「(6打)差を意識したら、急にスイングがおかしくなった。プレッシャーで手が動かなくなった」と宮本は言う。6打あるという事実に、縛られた結果だった。
宮本のゴルフが、「我(が)他(た)彼此(ひし)」と揺れ騒いだのは、ここからだった。14番ホールでボギー。続く15番ホールでダブルボギー。さらに、17番ホールでもダブルボギーと、一時は追う平塚哲二と2打差まで詰め寄られた。
思い出すのは、1996年のマスターズで、グレッグ・ノーマンが、6打差を大逆転されて敗れたときのシーンだった。16番ホールで池に入れてダブルボギーをたたいたのが致命傷となり、ニック・ファルドに3度目の優勝を持っていかれた。悲劇の男とノーマンが言われようになったのは、ここからだった。「スイングは、かなりよくなっている。その問題ではないと思う。その問題ではないと思う。問題はアティチュード(姿勢・心構え)だろう。彼は、前に、前に行きたがり過ぎる。すべてにおいてアドバンテージをとりたいなんて、メジャーでは無理なんだよ。ゲームはそういうもんじゃない。力だけでは、ねじ伏せられない。」と、そのとき語ったのは、ノーマンの先輩にあたる豪州のプロ、ジャック・ニュートンだった。
宮本が、2度のダブルボギーをたたきながら、勝利をもたらしたのは、おそらく15番ホール大ピンチをダブルボギーにおさめた攻め方だったと思う。
第1打、左の林。そこは17番ホールのラフ。第2打は、17番のフェアウエーに出すしかなかった。3打目も、本来の15番ホールに向かって脱出できず。4打目を今度は16番の池ギリギリに落とした。そして5打目で、ようやく15番ホールに戻り、2パットのダブルボギー。
ここで「ミスを二度と犯さない」という強い意志を持ってプレーできたことが、勝利への素因となったのだと思う。
「諸悪莫作 衆善奉行 自浄其意 是諸仏教」とは釈迦の教え「七仏通誡偈」にある。もろもろの悪を作すこと莫く、もろもろの善を行い、自ら其の意を浄くす。是がもろもろの仏の教えなり………という意味である。
宮本は、2位との差を意識し過ぎて自ら繋縛(プレッシャー)というミス行為から生んだスイングの狂いを、そこから生じたミスショットを丁寧に修正し、善い行いを積み重ねていこうとした。そのダブルボギーの7打が、勝利の道へとつなぎとめたのだろう。
17番ホールで、再びダブルボギーをたたいたけれど、18番ホールでの第2打は、まさに自らの心を浄くしたあとのベストショットだったと思う。「普段通りにすれば勝てると言い聞かせたが、できなかった。これがゴルフの難しさで、面白いところ。今までで一番うれしい優勝」だったと宮本勝昌は語っていた。
―――「昌鳳和尚のゴルフ講話」より
(神奈川県・法勝寺 三田村昌鳳師 元週刊アサヒゴルフ編集長)