米国サンディエゴで開催されたファーマーズ・インシュランス・オープンで、今田竜二が3日目を終えて13アンダー。2位に2打差で首位を走っていた。けれども、残念ながら最終日、3番ホール、パー3でボギーをたたいた後、ゲームの流れをつかめないままずるずると後退して、米ツアー2勝目を逃した。結果は、9位に終わった。
前日までの3日間、好調だった。ゴルフトーナメントが難しいのは、戦っているゲームの間に、3回夜を迎えることだ。そこに私生活が入り、睡眠をとらなければいけない。ささいなことで、人間は豹変する。
かなり昔の話だけれど、青木功が、「昨日の夜は水分をとり過ぎたから手がむくんでいる。だから、パターのヘッドに鉛を少し張ろう。」と意味不明な独り言を言っていた。青木の思考回路、感覚では、それでパッティングのタッチが矯正できるということだったのだろう。
今田が首位を走っていた1月30日。NHKの「ワンダー×ワンダー 驚異のダイビング」という番組で、空気タンクなしで潜り続けるフリーダイビングを取り上げていた。
沖縄のダイバー篠宮龍三さんが、それまでの記録105メートルを更新する107メートルを記録会で達成したシーンがあった。実は、その前日の大会で篠宮さんは失敗している。「ほんのささいなことで、うまくいかないんです。水と自分の体が溶け合わない。うまくいくかいかないかは、水につかった瞬間にわかります。」と言っている。
夜を迎えるということは、人間を微妙に変えてしまう。それがいい方向にいく場合と、逆の方向にいく場合と、ゴルフトーナメントは、それを3回繰り返す。
今田は一昨年、米ツアーで初優勝をしている。彼は14歳で単身アメリカへ渡り、ジュニアから戦っていた選手だ。ジョージア大学ゴルフ部を経て、プロ転向。下部ツアーで苦労して這い上がってきた。彼は、幾度かどん底を経験しているから、技量や経験ということでは、優勝争いのプレッシャーに、そう簡単に押しつぶされないはずだ。でも、最終日、2バーディー、5ボギーの75。特に、」最後の9ホールで3ボギー、1バーディーと精彩を欠いた。「パッティングは、ともかく入らなかった。それでも耐えていたけれど、その耐える気持ちを勇気づける一打もなかった。」と悔しがった。
よく優勝のレールに乗れるとか、ゾーン入るとか、優勝した選手のコメントの中
には、決まって、ゲームの流れに乗れたから勝てたという言葉が含まれる。
「無一物中無尽蔵」(何ものにも執着しない域に達せば、そこにすべてのものが蔵されている)という境地に近いのかも知れない。勝ちたいという欲望を超越すると、無一物中無尽蔵という穏やかなゾーンに入れるのだろう。
今回の今田は、そうはいかなかった。ゾーンにすら入り込めなかった。「心は極めて見難く、極めて微妙であり、欲するがままにおもむく。英知のある人は守れかし。心を守ったならば、安楽をもたらす。」
という法句経の一節が、今田のプレーに見え隠れしていた。つまり、イライラするトゲが、あった。耐えていても、耐えている自分の心が微妙に動揺し、平静を保つまでのコントロールに至らなかったのだろう。
でもきっと、今季の今田は、昨シーズンと違ったプレーを見せてくれそうな気がする。2勝目、あるいは3勝目と勝ち星をあげるかも知れない。そんな今田に、この励ましの言葉を贈りたい。「暗さのどん底に降りてゆく人間こそ、明るい希望と出会えるのではないか」という作家・五木寛之さんの著書「生きるヒント」からの言葉である。
―――「昌鳳和尚のゴルフ講話」より
(神奈川県・法勝寺 三田村昌鳳師 元週刊アサヒゴルフ編集長)